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書評日本デジタル・シティズンシップ教育研究会『はじめよう!デジタル・シティズンシップの授業:善きデジタル市民となるための学び』日本標準、2023/7/3

書評日本デジタル・シティズンシップ教育研究会『はじめよう!デジタル・シティズンシップの授業:善きデジタル市民となるための学び』日本標準、2023/7/3
 本書は「善きデジタル市民」を目指し、「デジタル技術の利用を通じて社会に積極的に関与し、参加する能力」を育成する教育の方法を示す。その前提として、次の通り「責任のリング」を説明する。私たちには自分への責任がある。そしてそのまわりに地域や家族・友人のコミュニティへの責任があり、 そのまわりに社会そして世界への責任がある。真ん中の自分への責任の輪は、個人の幸せとモラルがある。コミュニティへの責任は倫理に対応する。そして世界への責任がシティズンシップに対応する。
 デジタルシティズンシップ教育におけるモラルに求められるのは、資質と思考ルーチンと呼ばれるものだと言う。資質とは日常生活の指針となるもので、スキルのように繰り返すことによって身につけられると言う。中・高校になると、思考ルーチン (ジレンマについて熟考するための枠組み)を用いる。これらの教育には、自分とは異なる他者の視点を考え、共感するというモラル教育の方法が取り入れられるとして、ESDの「課題解決に向けて行動する」という目標と重なると本書は主張する。その教育は個の学び、他者との学び、社会的な学びであり、それぞれが往復するスパイラルな学びを、指導案やワークシートとともに具体的に示している。
 評者は、個人的な関心の深まりと社会的な関心への広がりを一体的にとらえるICT教育のあり方についての貴重な提案と受け止めた。



書評







 「デジタル・シティズンシップ」とは、「デジタル技術の利用を通じて社会に積極的に関与し、参加する能力」のことである。そして、本書は「善きデジタル市民」を目指すデジタル・シティズンシップ教育の本質を示している。
 本書は、@メディアバランスとウェルビーイング、Aプライバシー・セキュリティ、Bデジタル足あととアイデンティティ、C対人関係とコミュニケーション、Dネットいじめ・オンライントラブル、Eニュース・メディアリテラシーの6つの領域から構成され、実践事例、具体的な指導案、ワークシートを収録している。実践は、小・中・高校10事例、特別支援学校3事例を掲載している。実践13事例のテーマは、@メディアバランスってなんだろう【小学校低学年】、Aメディアの見方を考えよう【小学校低・中学年】、B情報の確かさを見極めよう【小学校中学年】、C著作物は誰のもの?【小学校中学年】、Dわたしたちのデジタル足あと【小学校高学年】、Eネットいじめに立ち向かう【小学校高学年、中学生】、Fみんなにとって気持ちのよい使い方って?【小学校高学年、中学生、高校生】、Gソーシャルメディアとデジタル足あと【中学生】、H45億人の目と足あと【中学生】、I刑を終えて出所した人の人権とメディアリテラシー【中学生】、JiPadを味方にしようー親子ICT教室の取り組み【知的障害特別支援学校中学部】K著作権・肖像権から自分の行動を考えよう【知的障害特別支援学校中学部】、L何を話していいのかな【知的障害特別支援学校中学部】である。
 本書では、情報モラルについて、「情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度」だとし、ここには情報社会へ参画する態度が含まれているが、 モラル教育であるため、シティズンシップ教育の視点はあまり見られないとし、デジタル・シティズンシップはESDとつながることで、 本来の価値を発揮することができるが、情報モラルにはそのような視点が不十分と批判している。そして、デジタル・シティズンシップは情報モラルの置き換えではなく、 上位概念だと考えればよいとし、ハーバード大学プロジェクトゼロによる「デジタルジレンマ」研究の成果を引き、「今日のネットワーク社会における個人的、モラル的、倫理的そして市民的ジレンマ」として、次のように「責任のリング」を説明している。私たちには自分への責任がある。そしてそのまわりに地域や家族・友人のコミュニティへの責任があり、 そのまわりに社会そして世界への責任がある。真ん中の自分への責任の輪は、個人の幸せとモラルがある。コミュニティへの責任は倫理に対応する。そして世界への責任がシティズンシップに対応する。
 情報モラルは真ん中の個人の幸せとモラルに関わる内容なのだが、しばしば個人のモラルはコミュニティの倫理と矛盾することがあると言う。例えば、 自由を大事にするモラルを持つ人は、学校などの所 属組織の厳しい倫理観に合わないこともあるだろう。このように、自分、コミュニティ、世界の間は必ずしも調和的とは限らず、さまざまなジレンマが存在し、それは時代と社会によって変化すると言うのだ。
 デジタルシティズンシップ教育におけるモラルに求められるのは、資質と思考ルーチンと呼ばれるものだと言う。資質とは日常生活の指針となるもので、スキルのように繰り返すことによって身につけられるとし、「立ち止まって自分を振り返る」「好奇心と共感を持って心を開く」「事実を求め、証拠を評価する」「選択とその影響を考える」「行動して責任を持つ」などを挙げる。中学校、高校になると、思考ルーチン (ジレンマについて熟考するための枠組み)を用いると言う。例えば 「立ち止まって、一歩下がり、見直し、先を見すえる」といったものだと言う。これらの教育には、自分とは異なる他者の視点を考え、共感するというモラル教育の方法が取り入れられるとして、ESDの「課題解決に向けて行動する」という目標と重なると主張する。
 本書はISA創造的思考力の三相 (独創的アイデア/多様なアイデア/アイデア評価と改善)等を参考に著者が考案したモデルの特徴は、 ステップ1:個の学び、ステップ2:他者との学び、ステップ3:社会的な学びであり、それぞれが往復するスパイラルな学びであると言う。本書では、それぞれのステップを日本の教師になじみのある学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」に関連づけている。
【ステップ1】は、個 (パーソナル) の学びであり、主体的で、場所は不問だと言う。ICT利活用等に関する課題 (テーマ) について、 個人 (自分)の感情/感覚、考え/意見を整理し、深める。自分自身を振り返り、自分自身の幸福、利益、不利益を認識する。この段階では必ずしも物事を客観的に、批判的にとらえられなくともかまわないと言う。
【ステップ2】は、他者 (グループ)との学びであり、対話的で、場所はクラス/家庭だと言う。ステップ1で取り上げた課題について、クラスや家庭で対話をし、他者の感情/感覚、考え、意見を知り、他者の考えを尊重し、多様性を認識する。もちろん、自己の感情や考えを秘密にしたい場合やセンシティブ情報の場合は他者と共有せずともよいこととする。課題や発達段階によってはネットで調査 (調べ学習) し、課題に対して客観的、批判的にみる力を養う。また、例えば、情報機器の利用 (メディア・バランス等)に関する学校や家庭での目標設定や約束ごとなどはこの段階で実践し、ステップ1の個の学びに立ち戻る場合もあると言う。
【ステップ3】は、社会的 (ソーシャル) な学びであり、深い (広い) 学びで、場所は学校/地域/ネットだという。ステップ1、2を踏まえたアウトプットの実践だという。例えば、学校であれば、委員会活動、学校行事、校外学習等で実践する機会を設ける。その後、ステップ1、2に戻り、改めて個/他者の感情/感覚、考え、意見の「振り返り」をし、ブラッシュアップするなど、よりよき変化、よりよき変革の認知を促すと言う。

 個人的な関心の深まりと社会的な関心への広がりを一体的にとらえるICT教育のあり方を示す書として評者は評価したい。




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