意見対立を避ける若者たちの増加に対応した育成方法 若者文化研究所 西村美東士  若者を見るためには独特の方法論がある。まずは個人差を見る必要がある。その前提の上で、第一に、青年期特有の不変の課題を見いだす。これは、育成者自身の青年期を振り返れば、それなりには理解できよう。第二に、時代の変化を見る。育成者も同時代を生きる者として、一定の理解はできよう。第三に、世代としての変化(コーホート効果と呼ぶ)を把握する。同年齢のときに同じ時代を経験してきた者としての共通する特徴を見いだす必要がある。  今回の調査においては、「友だちとの関係はあっさりしていてお互い深入りしない」者(交際淡泊型)と、「友だちと意見が合わなかったときには納得がいくまで話し合いをする」を否定した者(逆転項目:非交渉型)が増えているが、2002年調査から増加してきた「どんな場面でも自分らしさを貫くことが大切」を否定した者(逆転項目:状況対応型、肯定した者は貫徹志向型とする)は、逆に減少した。(表1「非交渉型及びの状況対応型の若者の増減傾向」)。「あなたはあなたのままでいい」というメッセージが浸透しつつあるのだろうか。   表1 非交渉型及びの状況対応型の若者の増減傾向 項目 調査年 1肯定 2やや肯定 3やや否定 4否定 X(_) SD N 増加率 交際淡泊型 1992年 8.3% 36.5% 45.2% 10.0% 2.57 0.783 1,105 2002年 8.8% 37.4% 36.4% 17.3% 2.62 0.871 1,087 1.5% 2012年 10.6% 40.9% 38.2% 10.3% 2.54 1.011 1,050 5.2% 2022年 13.2% 44.6% 32.6% 9.6% 2.39 0.833 628 6.3% 非交渉型 2002年 10.7% 39.0% 39.5% 10.7% 2.50 0.825 1,089 2012年 16.7% 47.0% 29.9% 6.4% 2.26 0.809 1,044 13.9% 2022年 21.2% 46.6% 26.5% 5.7% 2.17 0.824 631 4.1% 状況対応型 1992年 2.8% 28.0% 44.3% 24.9% 2.91 0.796 1,113 2002年 6.6% 37.6% 38.4% 17.4% 2.66 0.839 1,083 13.4% 2012年 8.6% 39.8% 36.7% 14.9% 2.58 0.845 1,046 4.1% 2022年 8.1% 36.5% 41.4% 14.1% 2.61 0.826 631 -3.8% 注)1(そうだ、そう思う)から4(そうではない、そう思わない)までの4件法。値が1に近いほど、該当する傾向が強い。ここで増加率とは、今回(1+2)%−前回(1+2)%。    上述の交渉と非交渉、貫徹志向と状況対応の2軸から4タイプを設定し、20年間の量的変化を調べた。貫徹志向非交渉型が増え、状況対応交渉型が減った。2012年に10ポイント以上減った貫徹志向交渉型は、減少傾向は続いたものの、1ポイント減にとどまった。(図1「4タイプの量的変化」)。  各タイプの他との比の差について検定を行った結果から、●1%有意、〇5%有意の特徴を手がかりに育成方法を書き上げると以下のとおりとなる。 @ 全体の3分の1以上にまで増えた「貫徹志向非交渉型」については、○自らの将来は明るいと思う としつつも、「●選挙に行くべきとは思わない」と言う。彼らに対しては、経済的自立、職業的自立を味わわせるための、状況や場面の設定が必要と考える。そのためには、共同作業をさせる、運命共同体のような環境において、どのように合意形成すればよいのか考えさせるなどが有効と考える。 A「状況対応非交渉型」については、「状況対応」の苦痛を示す特徴が多く見られ、2012年調査と同様に、交友関係、自己意識、社会意識の多くの項目で、個人化・社会化の未達状況が見いだされた。●今の自分が好きとは思わないのほか、●自分も親のような家族を持ちたいとは思わない、●子どもの頃、家でクラシック音楽のレコードやCDをきいたり、家族とクラシック音楽のコンサートに行ったりしなかったなど、成育歴やこれまでの文化資本の格差の問題を感じさせる。彼らの言う自分らしさとは異なる意味での「自己」を確立するための支援(自立支援)が重要であると考える。 B「貫徹志向交渉型」は、●自らの将来は明るいと思う、●親友とはケンカをしても仲直りできる、●自分には自分らしさというものがある、●人の話の内容が間違いだと思ったときには自分の考えを述べるなど、以前の結果と同様の積極性が多く見られた。しかし、〇恋愛交際をするなら結婚を考えるべきなどの「べき論」の強さについては、自己の信念と反する他者を許容できないなどの、「生きづらさ」にもつながりかねない。他者のニーズや組織の課題に対応して、一元的自己のどの側面を発揮するのか、その戦略を立てられるように援助する必要があるといえよう。 C「状況対応交渉型」については、前回までは、交友関係、自己意識、社会意識などの各側面において、充実した様子が見られたのだが、今回は●自らの将来は明るいと思わない、〇いつも友だちと連絡をとっていないと不安になる(個人化の未達の表れか)などの消極面が現れた。個人化の進む今日において、このタイプの減少とともに、「交渉型」の難しさを示す一端と思われる。  2003年の「青少年育成施策大綱」では、「自分の意見をもち、自己を表現し、他者を理解し、他者に働きかけ、家庭や社会のために自ら行動する、積極的、能動的な側面を併せもつ新たな青少年観への転換」が提唱された。しかし、まちづくりなどに関わる稀少な若者においても、意見が合わない人と「納得がいくまで話し合う」ことをスルーする者が多いと筆者は体験的に感じている。交渉型の生き方は困難を極めているといえよう。このような状況にある若者に対して、上に挙げた「将来に向けての」社会化支援、個人化支援だけでなく、居場所において「そっと肩を押す」ような「今ここでの」第三の支援が求められていると筆者は考える。 2