AI vs. 教科書が読めない子どもたち 新井 紀子 (著) 出版社: 東洋経済新報社 発売日: 2018/2/2  学生の基本的読解力に懸念を抱いた新井氏は、RST(読解力調査)を自力で開発した。同調査は、AI(人工知能)の正解率が80%を超える「係り受け」や急速に研究が進んでいる「照応」と、AIにはまだまだ難しいと考えられている「同義文判定」、AIにはまったく歯が立たない「推論」「イメージ同定」「具体例同定」の6つの分野で構成される。調査にあたり、理解できなければその人が不利益を被るような題材として、教科書から出題し、累計二万五千人の小中高校生のデータを収集した。  氏は、AIにとっては、憶えたり計算したりすることは容易でも、教科書に書いてあることの意味を理解するのは苦手だと言う。それは、日本の中高校生と同じで、AIで対処できない新しい仕事は、多くの人間にとっても苦手な仕事である可能性が非常に高いと言うのだ。それゆえ、AIに多くの仕事が代替された社会では、労働市場は深刻な人手不足に陥っているのに、失業者や最低賃金の仕事を掛け持ちする人々が溢れるという「AI恐慌の嵐に晒される」と氏は警告する。  実際、RST能力値と旧帝大進学率との相関が非常に高いという結果が出ている。このことから、超有名私立中高一貫校について、12歳の段階で高校3年程度の読解力のある生徒を入試でふるいにかけるのだから、あとの指導は楽だと言う。教科書や問題集を「読めばわかる」のだから1年間受験勉強にいそしめば旧帝大クラスに入学できてしまうと言うのだ。だが、同時に、12歳以降でも、スマホの使用時間などとはほとんど関係なく、読解力の向上はできると氏は言う。  評者は考える。「役に立つ学問」や「主体的・対話的で深い学び」などが叫ばれている。しかし、そのおおもとには、AIでは到達不可能な「読解力」が必要なのだ。多くの若者が、読解力不足のために「楽習」を味わえない状態を放置するならば、これは深刻な社会問題として認識すべきである。